[ゼロから始めるプロジェクトマネジメント] プロジェクトの懸案管理は「やる気」の問題
情報システム室の進地@日比谷です。
プロジェクトを進める中で、懸案事項は日々発生します。
そして、これらの懸案事項を適切に管理することは、PMの最も重要な責務の一つです。
懸案事項の管理は『やる気』の問題
そう私は考えています。
なぜなら、懸案事項の管理は
- 面倒で手間のかかる作業
- 日々の継続的な取り組みが必要
- 目に見える成果が出にくい
だからこそ、PMとして「やるべきこと」として確実に実施する強い意志が必要なのです。
ツールや開発手法に依存しない本質的な活動
懸案事項の管理について、時としてこのような議論を耳にします。
「より良い課題管理ツールが必要だ」
「スクラムを導入すれば自然と解決する」
「アジャイル開発ならこうすべきだ」
しかし、これらは本質を見誤った議論です。
懸案事項の管理は、
- 使用しているツールの種類に関係なく
- 採用している開発手法(ウォーターフォール、スクラム、その他)に関わらず
- プロジェクトの規模や性質に依存せず
必ず必要となる本質的な活動なのです。
「このツールでは適切な管理ができない」
「この開発手法では難しい」
これらは単なる言い訳に過ぎません。
エクセルであれ、紙の付箋であれ、どんなツールでも管理は可能です。
大切なのは、PMがこの活動を確実に実施する意志を持ち続けることなのです。
課題管理表の運用
懸案事項を管理するための最も重要なツールが課題管理表です。
これは単なる課題の一覧ではなく、プロジェクトをコントロールするための必須の道具となります。
課題管理表の作成と運用
PMは、プロジェクトの開始直後から課題管理表を作成し、維持する必要があります。
効果的な課題管理表には、以下の要素が必要となります。
- 優先度によるソート機能
- 課題の状態(未着手、対応中、完了など)
- 担当者と関係者
- 期限や目標完了日
- 現在の状況や課題
- 次のアクション
日々の運用
課題管理表は生きた文書として、以下のように運用していきます。
- 新しい課題は発見次第、即座に記録する
- 優先順位は状況に応じて柔軟に見直す
- 完了した課題もログとして残す
- 定期的なレビューの場を設ける
- チーム全員がアクセスできる状態を維持する
優先順位づけの考え方
優先順位づけは、以下の観点から判断します。
- プロジェクトの目的への影響度
- 解決の緊急性
- 他の作業への波及効果
- リソースの制約
ここで重要なのは、個々のメンバーの都合や好みではなく、プロジェクト全体の目的から優先順位を判断することです。
課題管理表を活用したマネジメント
状況に応じた適切なレビュー
課題管理表の共有方法は、プロジェクトの状況に応じて適切に選択します。
健全な状態のプロジェクトであれば、以下のような軽量な方法で十分です。
- NotionなどのDBで課題管理表を作成・共有
- 定期的なSlackやメールでの状況共有
- DBへのリンク
- 優先度高以上の懸案リスト
- 解決率
- 解決のスピード(日次・週次の解決数)
一方、以下のような状況では、定期的なレビューミーティングが必要となります。
- プロジェクトが厳しい状況(デスマーチまたはその予兆がある)
- 多くの高優先度の課題が未解決
- 問題が複雑で文面だけでは共有が難しい
ただし、定期的なミーティングはプロジェクトのリソースを大きく消費することを忘れてはいけません。
以下のような対応を心がけます。
- 開催頻度は必要最低限に抑える
- 状況が改善されれば、開催間隔を徐々に広げる
- 完全に状況が落ち着いたら、軽量な方法に切り替える
このように、プロジェクトの状況に応じて柔軟に運用方法を変更することで、効率的な課題管理が可能となります。
早期警戒の仕組みとして
課題管理表は、プロジェクトの健全性を測る重要な指標となります。
以下のような兆候は、要注意のサインです。
- 高優先度の課題が長期間未着手
- 同じような課題が繰り返し発生
- 課題の総数が増加傾向
- 完了のタイミングが見通せない課題の増加
これらの兆候を見逃さず、早期に対策を講じることがPMの重要な責務となります。
ステークホルダーとのコミュニケーション
課題管理表は、ステークホルダーとのコミュニケーションツールとしても活用します。
- 定期的な報告の基礎資料として
- 意思決定が必要な事項の説明資料として
- プロジェクトの現状を示す客観的な証拠として
特に重要なのは、問題を隠さず、現状をありのままに伝えることです。
これにより、必要な支援や意思決定を適切なタイミングで得ることができます。
PMとしての心構えと実践
呼吸をするように当たり前のこととして
懸案事項の管理は、PMにとって呼吸をするように当たり前の活動でなければなりません。
PMの仕事は、本質的にプロジェクトの掃除だと考えています。
プロジェクトの状況、リソース、目的など、様々なものを整理整頓し、プロジェクト関係者が即座に状況を把握して、自分のやるべきことを判断できるようにすること。
これがPMの重要な責務です。
従って、懸案管理を嫌いだから、面倒だからと行わないPMは、掃除をしていないことに等しく、PMとしての基本的な仕事すら行っていないことになります。
PMが専横的に懸案管理を行う理由
懸案管理をPMが主導的に行うことには、重要な理由があります。
- プロジェクト全体の最新状況を把握し続けるため
- コミュニケーションパスをPMに集中させるため
特に2点目は重要です。関係者が増えると、個々にやりとりを始めた場合、プロジェクトは急速にアンコントローラブルになっていきます。
ただし、これは個々のコミュニケーションを阻害することではありません。
例えば、開発者同士のコミュニケーションは活発であるべきです。
問題なのは、レイヤーが違う関係者同士がPMの預かり知らないところで物事を決めて進めてしまうことです。
具体的な時間の確保
「やる気」の問題と言っても、実際には具体的な時間の確保が必要です。
意志だけでは継続的な実施は困難だからです。
以下のような時間確保の方法をお勧めします。
-
週の初めに30分〜1時間を確保
- 一週間の課題の全体把握
- 優先順位の見直し
- 週間報告の準備
-
毎日の始業時に15〜30分を確保
- 新規課題の確認と記録
- 状況の更新
- 必要な共有の実施
これらの時間は、あらかじめスケジュール上で予約しておきましょう。
「時間があれば」という位置づけではなく、確実に実施するための予定として組み込むのです。
このように具体的な時間を確保することで、「やるべきこと」を「やれること」に変換することができます。
責任の所在を明確に
課題管理の最終的な責任はPMにあります。
特に、課題管理表の維持と更新は、プロジェクトの進め方に関わらず、PMが責任を持って実施すべき事項です。
その他の要素については、プロジェクトの状況やチームの特性に応じて柔軟に対応することが可能です。
例えば、
- 優先順位の決定は、スクラムなどアジャイルな進め方の場合、チーム全体で行う方が効果的な場合もある
- 進捗の確認方法は、チームの自主性を重視したアプローチもありうる
- ステークホルダーへの報告は、状況に応じて適切な実施者を選定できる
ただし、これらをどのように実施するにせよ、課題管理表自体のメンテナンスは必ずPMが責任を持って行う必要があります。
これにより、プロジェクトの状況の一元管理と、適切なコミュニケーションパスの維持が可能となります。
現実的なアプローチ
プロジェクトには様々な立場や動機を持つ人々が参加します。
全員のモチベーションを管理することは現実的ではありませんし、PMの責務でもありません。
重要なのは以下の点です。
- 何が解決済みで何が未解決かを明確にする
- 優先順位に従って確実に進める
- 必要な意思決定を適切なタイミングで行う
- 問題を早期に発見し対処する
確実な成果につながる地道な取り組み
懸案事項の管理は地道な作業です。
しかし、以下のような確実な効果があります。
- プロジェクトの透明性が高まる
- 問題の早期発見・対処が可能になる
- プロジェクトの座礁(デスマーチを含む)を防ぐことができる
まとめ
懸案事項の管理は、PMの最も重要な責務の一つです。
これは「やりたい」「やりたくない」という個人の感情で選択できるものではなく、プロジェクトを成功に導くために必要不可欠な活動です。
PMは以下の点を常に意識する必要があります。
- 課題管理表は単なるツールではなく、プロジェクトを制御する重要な手段である
- 面倒で地道な作業だが、確実に成果につながる
- 最終的な管理責任はPM自身にある
そして最も重要なのは、この活動を日々確実に実施する意志を持ち続けることです。
なぜなら、懸案事項の管理を怠ればプロジェクトは確実に座礁するからです。
プロジェクトの成否は、多くの場合、派手な施策や革新的なアイデアではなく、
このような地道な活動の積み重ねによって決まります。
PMには、地道な管理業務を確実にこなせる資質が求められます。
細部への目配り、整理整頓の習慣、日々の管理を淡々とこなせる継続力。
これらの要素が、実は優れたPMの重要な資質だと私は考えています。
PMである以上、懸案事項の管理は呼吸をするように当たり前のこととして実施する。
この覚悟と実践が、プロジェクトの成功への近道と考えます。